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旭川地方裁判所 平成9年(ワ)208号 判決 1999年6月30日

原告

有限会社ウォーム

被告

今富崇介

ほか一名

主文

一  被告今富崇介は、原告に対し、二九四万四三〇〇円及びこれに対する平成八年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の一と、被告今富崇介に生じた費用の五分の一を被告今富崇介の負担とし、原告及び被告今富崇介に生じたその余の費用と被告今富美由貴に生じた全部の費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金一二七三万一三〇〇円及びこれに対する平成八年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故によって物損を被った原告が、加害車両の運転者であった被告今富崇介(以下「崇介」という。)とその母親である被告今富美由貴(以下「美由貴」という。)に対し、民法七〇九条、七一九条に基づき共同不法行為として損害賠償を求めた事案であり、中心的争点は、(一)損害額、(二)被告美由貴に不法行為責任があるか、である。

一  前提事実

1  原告は、インテリア工事の設計、施工及び管理、インテリアデザイン並びに商品等の企画を主な業務とする有限会社である。

2  崇介は、平成八年五月六日午後五時五分頃、旭川市豊岡四条三丁目四番先において、美由貴所有の普通乗用自動車(登録番号旭川三三そ八一八八。以下「本件車両」という。)を運転中、過って原告の事務所(現本店。以下「本件事務所」という。)に突入した(以下「本件事故」という。)。

3  崇介は、昭和五一年五月一二日生まれで本件事故当時一九歳であり、美由貴は、崇介の母親である。

二  原告の主張

1  損害額について

(一) パソコン及び周辺機器 一五三万四三〇〇円

本件事故により、原告が平成八年三月頃購入したパソコン及び周辺機器が損壊した。原告は購入から二か月足らずで買い換えを余儀なくされ、購入価格相当の損害を被った。

(二) 事務所の備品 五〇万円

(三) 損壊したパソコンに保存されていたデータ等 七一九万七〇〇〇円

本件事故により、原告は、次にあげる企画書やデザイン画のデータ等を失い、これらを復元しなくてはならなかった。そこで、復元にかかる人件費を損害として求める。

(1) 本件事故後注文主に提供する予定で作成し、損壊したパソコンに保存してあった看板、店舗外観、商品パッケージ等のデザイン画及び企画書のデータ

(2) 設計した店舗等の外観を注文主に示すため作成してあった模型

(3) パソコンでデザイン等の作業をするにあたって繰り返し使うため保存してあった基本パターンのデータ

(4) 本件事故前に注文主に納入済みのデータ

仕事自体は終わっていても、データは別の仕事にも利用でき、無価値ではない。

(四) 休業損害(三五日分) 三五〇万円

本件事務所の修復に要した三五日間、原告の営業は停止した。

原告の平成八年三月一日から同九年二月二八日まで(右休業期間を除き実質一一か月間)の売上総利益は三一四四万九九七六円であったことから、一日当たりの休業損害を一〇万円と概算して算出する。

(五) 弁護士費用 一〇〇万円

以上から、美由貴から損害賠償の内金として受領した一〇〇万円を差し引いて、損害額の合計は一二七三万一三〇〇円になる。

2  美由貴の責任について

崇介は、未成年の上に以前に交通事故を起こしたこともあったから、美由貴は、崇介に本件車両を運転させるべきではなく、仮に運転させるとしても事故防止に必要な注意を行うべきであった。美由貴には、安易に運転を許した過失があり、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

三  被告の主張

1  損害額について

(一) パソコン及び周辺機器について

原告は、後に撤回したものの、リースしていた別のパソコンを購入したものとして損害に計上していた経緯がある。本件で購入したと主張しているパソコンについても、これらを真実購入したか疑わしい。

(二) 休業損害について

原告は、本件事故当時、豊岡五条三丁目八番一五号に所在する本店事務所を有し(以下「元本店」という。)、そこでは設計関係業務を行っていた。また、美由貴は、本件事故直後、原告側から本件事務所は六月から元本店に加えて業務を開始する予定で準備中だったとも聞いており、本件事故当時、本件事務所でどの程度業務が行われていたか明らかでない。原告が本件事故により三五日間休業したという主張は認めることができない。

(三) パソコン内のデータ等について

損壊したパソコンに、原告が主張するような多数のデータが集積されていたか、元本店のパソコン等に同じデータが保存されていなかったか、疑問がある。

さらに、原告の復元に要する人件費の算出は、客観的根拠に乏しい上に、新規にデータを作成する場合に要する手間と、一度できあがったデータを復元する場合に要する手間との違いが考慮されておらず、また、完成していない作業もあったはずなのに、その進捗状況を考慮していない可能性が高い。模型分の損害の算出根拠も曖昧である。

また、既に注文主に納入してあったデータについては、再利用といっても漠然とした可能性に過ぎず、経済的に価値のあるものとは認められない。

2  美由貴の責任について

崇介は、確かに過去交通事故に遭遇したことがあるが、友人の運転する車に同乗していただけであり、しかも相手方に大半の過失がある事故であった。また、美由貴は崇介に本件車両を貸すに当たって、必要な注意も与えており、過失はない。

第三当裁判所の判断

一  損害額

1  パソコン及び周辺機器について

甲五の1ないし5、七の1ないし3、一〇、一一の1ないし11、一八及び証人田中正博(原告取締役。以下「田中」という。)の証言によれば、本件事務所では、本件事故当時三台のパソコンを使っており、これが周辺機器も含め全損したこと、三台のパソコンのうち、一台はリースしていたが、二台は平成八年三月ころマツヤデンキより購入したこと、その購入代金は周辺機器も含め合計一五三万四三〇〇円であることが認められる。

被告が指摘するとおり、原告は、リースしていたパソコンについても、旭川キャノンコピア販売株式会社(以下「キャノン」という。)に請求書(甲四)を作らせて、購入代金名下で損害に計上していたことがある(甲一八)が、原告がマツヤデンキから購入したと主張しているパソコンについては、キャノンの作成したリスト(甲一〇)の他に、マツヤデンキの社判の入った請求書が存する(甲五の1ないし5)ことに照らし、このことから前記認定が覆されるものではない。

したがって、パソコン及び周辺機器の損壊により、一五三万四三〇〇円の損害が生じたものと認められる。

2  事務所内の備品

甲一一の1ないし11、一八及び田中証言によれば、本件事務所には五〇万円相当の備品があり、本件事故により損壊したことが認められる。

3  パソコン内のデータ等について

前提事実、前記認定の事実、甲一一の1ないし11、一二の2ないし7、一五ないし一八、二〇ないし二二、二四の1、2、二五の3、田中証言及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認められる。

(一) 本件事故後提出予定で作成していたデータについて

原告は、平成八年三月半ば頃、本件事務所に、従来使用していたよりも処理能力の高いパソコン三台をリース又は購入して導入した。原告は、これを使用して、本件事故までの間に、株式会社熊谷商店(菓子製造機械卸売会社、以下「熊谷商店」という。)を通じて請負った菓子店「やまだ」の店舗改装工事に伴うデータ(店舗外観図、看板やシール等のデザイン、営業方法等についての企画書、従前使用していた包装紙をスキャナーで読み取ったデータ)及び房雅博の自宅の一部を洋菓子店に改装する工事に伴うデータ(店舖外観図、収益予測)、士別市にある菓子店の請負工事を受注するために提出する店舗の外観イメージ図、熊谷商店の企画書並びに稚内市の公共施設の工事を受注するため提出する企画書を作成する作業を行い、作業の結果をパソコン内にデータとして保存していたが、本件事故でパソコンが損壊したことに伴ってデータも失われた。

その後、原告は、「やまだ」の店舖外観図、看板やシール等のデザイン、房氏の店舗に関する外観図及び収益予測、熊谷商店の企画書、士別市の菓子店の外観イメージ図、稚内市の公共施設に関する企画書を復元して注文主に提出した。

これらのデータの損害について、原告は、甲一二の2ないし4の記載が復元に要する人件費であるとして請求している。しかし、甲一二の2ないし4は、当初本件事故の損害が保険でまかなわれることを前提に、保険会社に提出するため取りあえず作成した資料である。そこに記載されている作業日数は、個々のデータを最初から作成し完成させるまでの作業予定日数であり、一度できあがったデータを復元する場合には最初から作成するよりも作業日数が短縮することを考慮しておらず、また、作業途中のものについても完成していたデータが失われたという前提で算出している(弁論の全趣旨)。したがって、甲一二の2ないし4に基づいて復元に要する人件費を算出することはできない。

他方、本件事務所では主にパートが中心となって作業をしており(田中証言)、平成八年三月から本件事故までの間にパートに支払った人件費は七〇万円程度であること(甲二五の3)からすれば、本件事故当時パソコンに保存されていたデータは、多くても六〇万円程度の人件費で作成されたものであるということができる。これに、前記のとおり、実際に復元したデータは損壊したデータの一部であること、復元する場合は新規に作成するよりも所要時間が短縮されることを考え合わせれば、復元に要する人件費相当の損害は、三〇万円と認めることが相当である。

(二) 模型

本件事務所には、設計した店舗の外観を注文主に示すための模型が四個あり、これが本件事故により損壊し、原告はすべて復元した。模型は、最初から原告で作成する場合と、途中まで外注し仕上げを原告で行う場合とがあり、四個のうち三個は建物単体の模型、一個は周辺の背景も含めたものであった(甲一六の1、2、一八、田中証言)。

甲一二の3に記載されている復元のための作業日数は、模型の製作を外注する際の価格を参考に、模型の製作を原告で受けた場合にどの程度の価格で受けるかを記載したものであるというが(田中証言・平成一〇年一一月二六日八五頁)、そうであればそもそも復元に要する人件費を記載したものではなく、原告の主張と整合しない。

他方、模型は、甲一六の1、2及び前記の目的にも照らし、さほど精緻なものであるとは認められず、一人が一か月程度作業をすれば十分復元は可能と見込まれる。したがって、復元のために必要な人件費(模型については、最初から作る場合と復元の場合とでさほどの差異はない。)は、三〇万円と認めることが相当である。

(三) 基本パターンのデータ

原告は、それまでの仕事で作成したデータのうち、以後の仕事でも利用可能と思われるものを保存しており、本件事故によりこれらのデータも失われた。甲一二の5は、原告や注文主のロゴ(名称の前につけるマーク)と、店舗等の外観図等を作成する際によく用いる図画のパターンであり、原告の仕事の性質上、復元することが必要であり実際に復元したものと認められる(甲一八、田中証言)。ただし、その復元に必要な人件費は、甲一二の5に六三日間と記載されているのに対し、田中も実際には二〇日間程度であると述べており(田中証言・平成一〇年一一月二六日七五頁)、これに照らせば二五万円と認めることが相当である。

甲一二の6は、フランドルという注文主から再度注文があった場合に利用が可能であるとして記載したものであるというが(田中証言・平成一〇年一一月二六日七八頁)、本件事故後、現在に至るまで、実際に注文がない(弁論の全趣旨)以上、復元のための人件費を損害として認めることはできない。

(四) 提出済みデータ

これについては、既に注文主に提出してあることにより本来の目的を達しており、一般的な可能性を越えて、他の仕事に利用する価値があるとは認められず、実際に復元したことを認めるに足りる証拠もない。したがって、復元のための人件費を損害として認めることはできない。

以上によれば、データ等の損害は、合計八五万円と認められる。

4  休業損害(利益減少)

前記認定の事実、甲一三及び一四の1ないし3、一八、一九、田中証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告は、平成六年六月ころから、主に設計の作業を行う元本店と共に、本件事務所を主にデザインや企画の作業を行う事務所として使用していた。本件事務所で行われていた作業は、前記認定のとおり、設計・請負の仕事を受注するために提出する企画書を作成する作業、設計の概要・イメージを注文主に伝えるために提出する図画の作成、店舗の建築、改装に伴う営業内容についての企画書及び備品等のデザイン等である。そして、平成八年三月頃には、処理能力の大きいパソコンを入れてデザインや企画業務の強化を図っていたところ、本件事故により、本件事務所は三五日間使用できなくなった。右によれば、本件事務所が閉鎖しても、元本店があった以上、原告が休業状態になったとはいえないが、その間、処理能力の大きいパソコンを用いる企画やデザインの作業ができない等、業務に支障が生じ、利益が減少したことが推認される。

どの程度利益が減少したかについては、平成八年三月一日から同九年二月二八日までの原告の売上総利益は三一四四万九九七六円、一日当たり約八万六〇〇〇円である(甲一四の1ないし3)。このうち、元本店の売上げと本件事務所の売上げは、判然と区別できるものではないが、前記認定のとおり、本件事務所で行われていた作業は元本店の業務の補助的な作業であること、菓子店「やまだ」の店舗改装工事について請負工事代金三五二万四九四〇円のうち本件事務所における作業の対価と明確に認められるのは企画設計施工料の二八万円であること(甲二〇の1)、稚内市の公共施設の企画書等、受注に至らず収入に結びつかない作業もあるが、このような企画書は採用されれば原告の収入において大きな意味をもつこと等を考慮すると、本件事務所が閉鎖されたことにより、一日当たり二万円、三五日間で七〇万円売上げが減少したと認めることが相当である。

5  以上によれば、原告の損害は、右合計の合計三五八万四三〇〇円に、弁護士費用として三六万円を加え、既払分の一〇〇万円を差し引いて、二九四万四三〇〇円となる。

二  美由貴の責任について

乙六、美由貴の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、崇介は平成七年二月に運転免許を取得したこと、本件事故以前にもたびたび運転をしていたこと、同年三月に美由貴から借りた車を友人に運転させて事故に遭ったことがある以外には特に交通事故を起こしたことがないことが認められる。右によれば、崇介に運転をさせれば第三者に危害を加えるおそれがあると予見しうるような状況は認められないから、美由貴が崇介に本件車両を運転させたことについて監督義務に違反する点があったとはいえない。したがって、美由貴は本件事故について不法行為責任を負わない。

三  結論

以上によれば、原告の請求は、崇介に対する二九四万四三〇〇円及びこれに対する不法行為日である平成八年五月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを認める限度で理由があり、その余は失当であるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部純子)

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